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アジア通信
第3号 2009年6月号
目次
1
ANMC21研修事業の紹介
東京で行った「資源リサイクルの促進」研修を紹介します。シンガポールから参加した研修生のインタビューをお伝えします。
2
大都市の先進的な取組
(1)FROM東京 ~3万5千人が駆け抜けた!東京マラソン2009~
  「東京がひとつになる日」三回目を迎え、今や東京の一大人気イベントとなった東京マラソン。
  海外からの参加者も多数います。スタッフとして参加した事務局職員のレポートです。
(2)FROMシンガポール~シンガポールのユニークな少子化対策
  少子化問題に対するシンガポールのユニークな取組を紹介します。
3
東京で学ぶ留学生
首都大学東京で水問題解決のための研究を行っているハノイからの留学生ブイさんと担当教授の河村先生にお話を伺いました。
4
東京の企業紹介
 世界に拡がる「ものづくり」のDNA(2/2)~「ものづくり」の夢、はてしなく~

前号に引き続き、世界に進出する東京の中小企業を紹介します。今回は、進出先のタイでの取組に焦点をあてます。
研修事業の紹介
ANMC21では、会員都市の行政職員や専門家を対象に、専門分野ごとに様々な研修プログラムを設けています。今回は、今年2月に行われた「資源リサイクル研修」を紹介します。

「資源リサイクルの促進」研修(実施レポート)
 東京都は、リサイクルや廃棄物処理技術の向上を目的として、2009年2月16日~20日の5日間「資源リサイクルの促進」研修を開催しました。今回の研修参加者は、シンガポール1名、バンコク2名、東京都3名、江戸川区1名の計7名でした。

研修の様子
研修の様子
 研修プログラムは、参加者の希望に基づき、現場視察と現地でのディスカッション及び質疑応答が中心となります。3日間の現場視察では、「地域住民が主体となった廃棄物処理」として地域の町内会の古紙回収の取組、「焼却灰のリサイクル 施設」としてエコセメント化施設 や清掃工場 の灰溶融施設 、「リサイクルの推進とごみ減量」として民間事業者による廃情報機器類等リサイクル 施設・食品廃棄物バイオガス発電 施設を訪問しました。その他にも、埋立処分場やリサイクル施設など、寸暇を惜しんで朝から晩まで施設等をくまなく見てまわり、活発な意見交換を行いました。

 最終日はテーマに興味を持つ東京都職員約20名も参加し、独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所の小島道一先生による公開講座を実施しました。前半は小島先生の「3R分野におけるアジア各都市の連携について 」の講義を聞き、後半には各都市の現状に関する情報共有を行いました。先生からは「連携の第一歩はお互いを良く知ることから」とのアドバイスをいただきました。

5日間の研修期間中は、バスでの移動の時間や昼食・夕食時もずっと一緒に行動します。研修生同士でお互いの都市における廃棄物処理・リサイクルの状況に関する情報交換やディスカッションはもちろんのこと、文化面の交流も活発に行われ、お互いに有意義な時間を過ごしました。次回の資源リサイクル研修は10月19-23日に行われる予定です。興味のある方はぜひご参加ください。

シンガポールからの研修生ジリアンさんに、シンガポールの廃棄物処理・リサイクル施策や研修の感想を伺いました。
Interview シンガポールからの研修生ジリアンさん
ジリアンさん
ジリアンさん
—シンガポールの廃棄物処理の仕組みを教えてください。
 シンガポールでは、廃棄物・資源の回収を9つの地区に分けて行っています。PWC(Public Waste Collector:公共廃棄物回収事業者)は、9つの地区それぞれの廃棄物・資源回収について、入札で決められています。廃棄物は毎日、資源は1週間又は2週間に1度回収されています。回収費用は、入札価格に応じて各家庭から毎月徴収されています。商店はPWCが回収を行い、排出量と入札の相場から算出される回収費用を毎月支払います。現在、契約は7~8年ごとに行われています。
 産業・商業施設はPWCとの契約ではなく、許可を受けたGWCs(General Waste Collectors:民間の回収業者)とそれぞれ独自に契約を結んでいます。
 回収された可燃ごみは全て、埋立地を保全するため、廃棄物の焼却による熱エネルギーを有効活用する清掃工場に送られなくてはなりません。燃やせないごみだけが埋立処分に送られます。
 廃棄物の減量と処理施設の必要性を減らすため、シンガポールでは様々な廃棄物の最小化やリサイクルのための施策を実施しています。例えば、ナショナル・リサイクル・プログラムでは、住民にリサイクル用の袋や容器を供給し、戸別回収を行います。また、シンガポール包装協定は、製品の梱包デザインの見直しや、包装に再生品やリサイクル可能な材料を使うことで、包装ごみを減らすというものです。
 教育や意識啓発の取り組みでは、学校リサイクルコーナープログラムや「リサイクルの日」の設定により、リサイクルを促進・維持しています。

—東京都では、環境産業を振興し、廃棄物問題を解決するための、民間企業へのインセンティブのあり方が課題となっています。シンガポールでのインセンティブ施策を教えてください。
 シンガポールには、3R産業の振興と環境の持続可能性を推進するための、財政施策がいくつかあります。NEA(National Environment Agency:環境庁)には、「環境持続可能性開発基金」があり、シンガポールに登記がある事業者は、環境の持続可能性に役立つ革新的なパイロット事業に挑戦できるというものです。
 2009年4月22日、NEAは800万ドルの3R基金を開始しました。これは、最終処分場に送られる廃棄物を減らす3R事業に係る経費のうち、80%を上限に助成するというものです。

—今回の研修はいかがでしたか。
 日本の廃棄物処理施設は非常に先進的だと感じましたが、焼却灰のリサイクルは特に役立ちました。灰溶融、エコセメント施設の視察はとても参考になりました。
 シンガポールでは、90%以上の廃棄物が焼却処理され、現在、焼却灰は唯一の処理場である、沖合いのセマカウ処分場に埋立処理されています。焼却灰が経済的にリサイクルできれば、処分場をより長く使うことができ、更なる埋立地を建設するための場所を節約できます。
 高価な処理施設をさらに建設することは、天然資源が乏しく、国土が狭いシンガポールにおいては持続可能ではありません。日本と同様、シンガポールは廃棄物の最小化とリサイクルを推進し、「廃棄物ゼロ」「埋立ゼロ」のシンガポールという目標に向かって取り組んでいこうと思います。

大都市の先進的な取組
ANMC21会員都市が行う、先進的な取組を紹介していきます。

(1)FROM東京 ~3万5千人が駆け抜けた!東京マラソン2009~
 今回で3回目となる東京マラソンは3月22日(日)に開催され、EXPOなど様々なスポーツ関連イベントとあわせて盛大に行われました。

 今年は、10kmとフルマラソンとを合わせて3万5千人(昨年より5千人増)の定員枠に対して、応募者数は約26万人にも及びました。また、海外からも約70カ国から約2,700人がランナーとして参加するなど、国内外から非常に高い人気を博した大会となりました。

 マラソン当日は、国際的なトップアスリートをはじめ、オリンピック招致をPRするために北京オリンピックレスリングでメダルを獲得した伊調姉妹などのゲストランナーも多数参加し、会場は大変盛況でした。レース途中から時折雨が降る悪天候ではありましたが、97%もの方々が完走を果たしました。

 初めて大会に参加したアジアのランナーの方にレース後に感想を伺ったところ、走行中は、プーさんの着ぐるみを着たランナーや、面白い帽子を被ったり天使の羽をつけて走る子どものランナーなど、ちゃめっけのある走者との遭遇が印象に残った、とのことでした。また、大勢のボランティア(総勢約13,000人)によるコースの誘導や、食料の配給が大変充実しており、沿道からの温かい声援も走っていて非常に嬉しかったようです。

 4回目を迎える来年も、国内外のランナーにとってそれぞれ素敵な思い出となるようなマラソン大会になることを願っています。

紙吹雪の中、ランナーが一斉にスタート!
紙吹雪の中、ランナーが一斉にスタート!
銀座を疾走するランナー
銀座を疾走するランナー


(2)FROMシンガポール ~シンガポールのユニークな少子化対策
 少子化問題は、労働力、年金問題などと密接につながっており、近い将来アジアの大半の国が直面する重要な課題です。今回は編集部が選んだシンガポールのユニークな少子化対策を紹介します。
 シンガポールでは、2004年に合計特殊出生率が1.26まで低下しましたが、近年は回復の兆しが見えてきました(2007年1.29)。しかし、人口増加につながる目標の2.1にはまだ遠い状況です。
 昨年の建国記念日の施政方針演説で、リー首相は、概ね半分の時間を少子化対策に費やし、自らの体験を織り交ぜ、国民にこの問題への理解と協力を呼びかけたほどです。

 中でもユニークなのは、結婚支援策です。民間会社ではなく、政府が直接、独身男女を対象に、会員制の「Love Byte」という出会い系サイト(http://www.lovebyte.org.sg) を設け、趣味や地縁によるサークル活動を誘導し、婚姻率の上昇を図る取組みを行っています。サイトの会員ページには「出会いを確実につかむコツ」や「デート時の服装」といったノウハウが掲載され、めでたくゴールインしたカップルの体験談も多数載っています。
 このほか、季刊の情報誌「DUET」を発行して、デートの際に使える割引クーポンや流行スポット、交流パーティーなどの各種イベントスケジュールなどを掲載しています。登録している独身男女が安心できる出会いの場で生涯の伴侶を見つけられるよう、強力にバックアップしています。
情報誌「DUET」
情報誌「DUET」

 さらに、結婚の次は、夫婦が出産や育児をし易い環境づくりが重要と、政府はこちらに対する優遇策も強化しました。
 たとえば、子ども一人につき、「子育て口座」という専用の特別口座が開設され、親が貯金すると同額の補助金が政府から口座に支給されるという制度が新たに設けられました。上限はありますが、政府が認可する保育所や幼稚園、教育機関などへの支払に使えるなど、かさむ教育費に頭が痛い親達にとって救世主になりそうです。
東京で学ぶ留学生
東京都では、首都大学東京においてアジアの各都市から留学生を受け入れ、都市問題の解決やアジアの発展に結びつく高度先端的な研究の推進を図っています。
今回は、「ベトナムの水問題に関する研究」を行っているハノイからの留学生ブイさんと担当教授の河村先生にお話を伺いました。

Interview ハノイからの留学生ブイさん

ブイさん
ブイさん
—首都大学東京で学ぼうと考えたきっかけは何ですか?
 日本で、とりわけ優れた奨学金制度のある首都大学東京で学ぶことは、長い間待ち望んでいたことです。日本は世界の中でも自由、高度な技術力そして莫大な経済力がある国の一つです。日本がいかに短期間のうちに国力をつけたかを学び、また日英の外国語を学ぶ絶好の機会になると考えたからです。
 また、私が学んでいたベトナムの水資源大学(WRU)は首都大学東京と提携しています。この大学で学ぶことは、提携関係に重要な役割を果たすと考えます。
 さらに、河村明教授は、私が興味をもっている分野の専門家です。彼の著書や研究テーマは興味深く、また就職後も必要となるものでした。また水資源大学との長期にわたる連携関係から、ベトナムへの理解を教授がもっていたことも理由です。


—首都大学東京ではどのようなことを研究していますか、また研究修了後の目標は何ですか?
「ベトナムの紅河デルタにおける洪水の数値モデルとその他の水問題」を研究課題として取り組んでいます。主な研究テーマは次の2点です。 ・デルタ地帯の都市部での洪水(ハノイ、ナムディン省):数値モデル(排水システムの計測、洪水ハザード情報の管理と予防策) ・地下水資源:紅河デルタにおける持続可能な発展のための地下水の活用、保全と管理 研究修了後は、ベトナムで研究活動と指導とを行い、自分の研究成果を実用化することとし、さらにベトナムの人々の生活がより豊かになるような国家連携、特に大学連携をさらに発展させたいと考えています。将来、厳しい状況に直面しようとも目標に向かって邁進したいと思います。 研究テーマに関する討議の様子
研究テーマに関する討議の様子

—首都大学東京の生活は?
 勉強面と生活面にわたる大学の多大なサポートのおかげで、日本語に多少難があるほか、悩むことなく研究に取り組んでいます。地域の伝統催事、専門的なフォーラムや会議などに参加しています。日本に住んで感じることは、日本はとても安全で便利な国だということです。みなさんフレンドリーで、責任感が強いです。日本での生活は期待どおりすばらしいものです。 浅草にて
浅草にて


「アジア都市圏における水問題解決のための適応策に関する研究」をご担当されている河村先生にお話を伺いました。
Interview 河村 明 教授

河村 明 教授
河村 明 教授
(首都大学東京
大学院都市環境科学研究科
都市基盤環境工学専攻)
—本研究の目的は何でしょうか?
 アジアの諸都市においては、温室効果ガスの増加による気候変動の影響を強く受け、森林伐採や人口集中による急激な都市化の進展や産業の発展と高度化に伴い、激甚な水災害、著しい水域の汚染、安全な飲料水へのアクセス不足などの甚大な水問題が起きています。今、水問題の解決が都市存続に関わる最重要課題として取り上げられています。
 この研究では、首都大学東京大学院都市環境科学研究科の教員11名により、アジア都市圏における様々な水問題を取り上げ、それぞれの都市で実行可能な技術手段と具体的な方策や政策シナリオを提示することを目指しています。

—先生がご担当の研究は具体的にはどのようなものでしょうか?
 私の研究テーマは、複雑な水の問題(特に洪水や渇水問題)に対し、水文学(すいもんがく)および水資源学の立場からアプローチすることです。ここでは、都市型洪水に関する先端的な研究を簡単に紹介します。
 この研究では、都市域における洪水被害の低減を目的として、雨水が流出してくる経路を物理的に忠実に再現できる精緻な洪水流出予測モデルを開発しています。このモデルは、GIS(地理情報システム)を活用し、人工建造物などの不浸透域、森林・公園などの浸透域、そしてマンホールや下水道システムといった個々の要素を選び出し、対象要素毎に専用の流出モデルを組み込むモデルとなっています。その結果、精度の高い都市型洪水氾濫予測を行うことが可能となるほか、個別建物に設置する雨水浸透施設の効果やある道路に透水性の舗装を整備した場合の効果の検証などを詳細にシミュレーションすることが可能となります。

—首都大学東京の留学生に向けてメッセージをお願いします
 本学は、特に東京都と密な連携研究を行っています。実在の巨大都市である東京都を研究実験フィールドとして積極的に活用し、その具体的なデータを用いてアジア大都市の直面する複雑な数々の問題を俯瞰的かつ実務的に解決する能力を総合的に養ってもらいたいと思います。また、東京都のアジア人材育成基金奨学制度は、文部科学省の国費留学生制度を凌ぐ待遇でアジアからの優秀な留学生を本学に受け入れるもので、基本研究費や住宅補助金なども支援されます。ぜひ本制度を活用し、アジアの優秀な留学生が安心してのびのびと研究に取り組むことを期待しています。

東京の企業紹介
世界に拡がる「ものづくり」のDNA(2/2) ~「ものづくり」の夢、はてしなく~
前回紹介した株式会社南武は、金型用油圧シリンダーやロータリーシリンダーの国内トップメーカーです。
今回は、この南武が、2002年にタイに進出したお話を紹介します。

前回に引き続き中田常務にお聞きしました。
 「タイに進出したきっかけは、現地で20年以上商売をしている日本人の知り合いから紹介されたからです。当初は10名ほどの規模でスタートしました。」
 苦労したことについてお聞きすると、「困ったのは、雇用しても半分ほどがすぐに辞めてしまうことでした。日本で研修を受けさせても、より条件が良いところがあればすぐに辞めてしまうなど、日本人よりドライな面があります。」とのことでした。定着率の低さを克服する鍵は、意外なところにありました。

 「工場内にエアコンを整備したら、離職率が急に低くなりました。しかも、残業や夜勤を希望する人が多くなりました。家にいるより、涼しい工場で働いていたほうが良いと思ったのでしょう。」と常務は語りました。
 「定着率も良くなり、従業員の技術力もアップしました。長く勤めているものの中から優秀な人を選び、スーパーバイザーとして経験の浅い従業員の指導をさせています。今、日本からマネジメント担当として2名を派遣していますが、最終的には1名にしたいと考えています。」と語る常務の顔からは、タイ工場に対する強い信頼が感じられました。
工場内部の光景
工場内部の光景

 その後、南武のタイ工場は、2006年に「オオタテクノパーク」に移りました。この「オオタテクノパーク」とは、タイでアマタ・ナコーン工業団地を経営するアマタ・グループのビクロム・クロマディット会長が、大田区の産業集積の力に注目し、自国の工業振興のために中小企業誘致施設として建設したものです。
 「現地工場がようやく軌道にのってきたところで、あえて移らなくても…」と当初は移転に気乗りがしなかったようですが、大田区長やクロマディット会長らの「大田区の代表として入ってほしい」「大手は何もしなくても来るが、タイでは中小企業を育てたい」という言葉に心を動かされ、入居を決めたそうです。
 約300坪のオオタテクノパークの工場では、現在日本人も含めると47名の従業員が働いているそうです。

野村和史社長
野村和史社長
最後に、南武の野村和史社長にお話を伺いました。
 「当社では、国内外ともに派遣社員はいません。社員の首も切りません。
また、外国人も対等に扱っています。これは、昔シンガポールに滞在したことがあり、現地の中国人に大変お世話になったことがあり、その恩返しをしているのです。」と社長は語りました。
 また、南武にとどまらず大田区の製造業が持つ強みについて、日本そして世界の各国と比較しながら、われわれにも理解できるよう簡単に説明していただきました。「ものづくり」について熱く語る社長は、厳しい経営者としての顔と夢を追い求めるクリエイターの顔の二つを持ち合わせているような気がしました。

 社長のインタビューを終えて南武を後にしたわけですが、結局予定の30分を大きく超え、3時間にも渡り取材をさせていただくことになってしまいました。この場をお借りして、取材にご協力いただいた野村社長、中田常務そして南武の皆様にお礼を申し上げます。