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アジア通信
第9号 2010年6月30日発行
東京の企業紹介
「ボートの中で培われた起業家精神」(2/2)
 アジアとの関わりをもつ東京の中小企業を紹介します。

後編 大洋に漕ぎ出す者たち
 前回紹介した大洋メタルワーキング有限会社は、ベトナムからボート・ピープルとして脱出し、日本にたどり着いたチャン・バン・ジュオン氏が、自動車部品や医療機器部品等の機械加工生産を行う会社として、2004年に東京都大田区で立ち上げました。


大洋メタルワーキング
 ジュオン社長が会社を起業する際、面倒な手続きや関係者との折衝などを一手に行った小川久美子さん(現・大洋メタルワーキング営業担当取締役)にお話をうかがいました。

−ジュオン社長と一緒に起業した経緯は。
「ジュオン社長が以前勤めていた会社に、私も勤務していました。私も転職を考えていましたので、共に独立を目指しました。」

−前の会社でのジュオン社長は、どのような感じでしたか。
「当たり前ですが、会社に入ったばかりの頃は周りが日本人ばかりなので、戸惑っていたようです。しかし、持ち前の粘り強さでコツコツと技術を磨き、数年後には社内で並ぶものがいないほどの優秀な技術者になっていました。もともと手先が器用な方だと思うのですが、それ以上に本人の努力が大きかったと思います。」

−ジュオン社長との役割分担は。
「私は、社長が技術部門に専念できるよう、営業など外部との折衝をすべて行っています。また、総務関係の仕事もすべて行っています。
 我が社には、社長と私のほか、ベトナム人の社員が4名いますが、そのことが、手先が器用で勤勉なベトナム人の創意工夫の精神を治具の製作に活かすなど、他社に無い我が社の強みとなっています。皆さんが何の心配も無くものづくりに専念できるよう、日本での生活面も含めサポートしていきたいと考えています。」

 大洋メタルワーキングは、日本全体が長引く不況に苦しむ中、順調に売上げを伸ばしています。取引先も順調に増え、今では朝8時から夜9時、10時まで工場を稼動させなければ間に合わないそうです。したがって、新しい人材の採用、育成が現在でも急務となっています。
 そのための一つの手段として、2009年1月に東京都産業労働局主催で開催されたベトナム人留学生等に向けた就職セミナーにも参加しています。その参加が契機となり、ベトナム人のグエン・トワン・アンさん(30)が入社しました。


仕事にもすっかり慣れたアンさん
 アンさんは、ダナン市出身でベトナムの大学を卒業後、機械加工の仕事をしていましたが、日本の技術レベルは高いと聞き、2年前に来日したそうです。
当初は別の派遣会社で働いていましたが、就職セミナーが縁となり、大洋メタルワーキングで働くことになったそうです。
 アンさんは、「社長は仕事に関してはあまり口出ししませんが、同邦人である為、ベトナム語でコミュニケーションがとれるし、ベトナム人の社長の会社で働くことはうれしいです」と、はにかみながら答えてくれました。
 2004年にジュオン社長と小川取締役のたった二人の漕ぎ手で、大洋に向けて出航したボートには、いつのまにかアンさんをはじめとする4名の若い漕ぎ手が加わり、一回り大きくなりました。

 最後に、大洋メタルワーキング号の船長でもあるジュオン社長に、将来の夢、そして日本で学ぶ留学生に向けたメッセージをお聞きしました。
 「いつかはベトナムにおいて、日本で学んだ技術を活かして仕事をしてみたい。ベトナムは、昔と違い海外からの投資が盛んなのでチャンスはあると思います。私の祖国であるベトナムの発展に少しでも貢献できればと考えています。
 多くの留学生の皆様は、日本で技術や知識を身につけて本国に帰ろうとしていると思います。日本への留学を実り多いものにするためにも、習慣の違いがあり厳しいとは思うが、がんばるしかない(きっぱりと)。昔と比べ、今はチャンスが多いと思います。」