2013年1月22日から25日まで、東京都で「洪水・高潮・津波対策研修」を実施しました。
今回の研修では、東京都建設局、港湾局、下水道局3局による講義、都内主要施設の視察を通じ、東京の治水施策を網羅的に学べるプログラムを実施しました。バンコク、ソウルからの参加者と共に充実した4日間となった研修の様子を報告します。
―都市型の治水対策から学ぶこと
目黒川荏原調節池
延長およそ120m続く貯留層が、地下4層まで建設されている
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取水口を見上げる研修参加者
「調整池というのは屋外にある、というのが私のイメージでした。都心の地下にこんなに巨大な空間があって、洪水から街を守っているんですね」
研修2日目、視察先の目黒川荏原調節池の内部に入るなり、ソウルの参加者はその大きさに思わずこんな台詞を漏らしました。
目黒川荏原調節池とは、目黒川の洪水から街を守るために建設された4層にも及ぶ地下の大構造物です。25mプール約800杯分を貯留することが可能なこの調節池の中に、実際に入ってその構造を間近で見学しました(もちろん研修時、水は流入されていません)。
「あの上に見える部分が取水口です。洪水氾濫が起こり得る水位になると、あそこから水が池に流れこみます。雨の量によって、一層だけ使用すれば済むこともあるし、一層だけでは済まないときは次の層へ順次流れ込みます」
東京都の担当者による説明の合間には、研修生から様々な質問が出されました。
「流れ込んだ水はどうやって外に出すんですか」
「水と一緒にごみが入ってくることはないのですか?どうやって掃除をしているんでしょうか」
参加者は、それぞれの都市に還元できる取組はないか、一つでも多くのことを学ぼうとしているようでした。特に、バンコクでは都市化が急激に進んでおり、貯留施設用の土地の確保が非常に厳しい状況になっています。このような側面からも、今回の視察を通じ、地下式の貯留施設導入に向けた新しい発想を得ることができたようです。
視察中の熱心な質疑応答の合間、バンコクの研修生はこんなことも言っていました。
「華やかでキレイな街を支えているのは、実は、外からは見えないけれど、このような施設とそれを管理する人たち。このような施設を実際に目にすることができたのは、得がたい経験です」
2011年に深刻な洪水被害を経験したバンコクの参加者は、今回の研修参加にあたり、どのように雨水を滞留させているのか、東京都の対策を学びたいと当初から話していました。同じアジア大都市の職員として、共通する課題に取り組む東京都に対して、大きく共感するものがあったのではないでしょうか。
―東京の低地河川の取組から、共通する課題への解決策を考える
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高潮対策センター
水門をコンピューターで制御する仕組について説明をうける
今回の研修の視察先の多くは、低地河川が集中する地区、「江東三角地帯(デルタ)」に位置します。水門管理センターや東京港の高潮対策センター、さらに、江東内部河川や隅田川のスーパー堤防など、これらは台風などによる高潮被害から街を守る役割を担うものです。
「東京都の低地河川の地理的な環境は、バンコクと非常によく似ています。地理的には似ているものの、バンコクに比べ東京のマネジメント方法は大変整備されていて、学ぶことが多い」
バンコクの参加者がしきりに感心していたのは東京都の「マネジメント」について。
「水門の開閉は、コンピューターで完璧に制御されている。バンコクでは手動のものが多く、管理が行き届いているとは言えません」
また、江東内部河川を船舶で移動している際に歓声があがりました。それは、扇橋閘門での出来事。水位が異なる河川を通航可能にするのが扇橋閘門で、「ミニパナマ運河」とも呼ばれています。今回の研修では、隅田川に向け扇橋閘門を通るのが視察ルートの一つでした。
いざ閘門に入ると人工的に水路の水位が上昇。水位が隅田川と同じ位置に来ると、水門がオープン。参加者から歓声が上がったのはまさに、水門がオープンした瞬間のことでした。
「衝撃が全くない!」
バンコクでも同じような閘門はありますが、水門を開けた際に流れ込んでくる水の衝撃で船がひっくり返りそうなくらい大きく揺れてしまうそうです。思いもよらない場面での歓声に、一同多いに盛り上がった一幕でした。
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扇橋閘門を通過して隅田川に出る
水門が開いた瞬間も、水面は穏やかなまま
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蔵前ポンプ所
ポンプの断面図を見ながら途切れることのない質問が飛び交った
―様々なアジア都市が一同に介し、共に学び合う楽しさ
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研修生と東京都スタッフの記念撮影
4日間の研修は短すぎるのではないかという参加者の意見を聞きながら、やはりあっという間に研修最終日となりました。今回、研修に関わった東京都スタッフ全員が感じたのは、研修参加者と東京都担当者との間で予想以上にたくさんの質疑応答やディスカッションが行われたということです。中には、「こんな質問は初めてだなぁ」と、聞かれた担当者が驚いてしまうようなポイントを突かれる場面もありました。しかし、積極的に知識を吸収しようとする研修生から逆に刺激を受け、施策についての認識を新たにすると共に、学び合える楽しさを共有できたようでした。
このような機会を通じ、アジア都市間のネットワークがさらに強化され、それが各都市の課題の解決策を生み出す契機となることを期待しています。
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