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アジア通信
第13号 2011年2月28日発行
縫合複合材の層間強化についての研究 (次世代航空技術に用いられる新素材の研究)
システムデザイン研究科 航空宇宙システム工学域
タン クウェック ズ
 複合材料には極めて強く、なおかつ驚くほど軽いという独特の特性があります。このために複合材料は、燃費節約と航続距離延伸のために、現代の航空機構造において大いに用いられています。しかし、複合材料には衝撃損傷に対する脆弱性という大きな弱点があり、それが一般的に層間剥離と言われる層間の亀裂を生じる原因となります。我々の研究では、縫合と呼ばれる効果的な技術を用いることで、この大きな弱点を克服しました。縫合技術とは基本的には、層間剥離の発生を抑えるために複合材料の板厚方向に強靭な糸状の繊維で縫うことです。縫合複合材はより強く、なおかつより軽い航空機素材のための大きな可能性を秘めています。しかし、複合材料の挙動に対する縫合の効果についての理解はまだ十分ではありません。本研究の目的は次の3点、すなわち層間強度の強化における縫合の有効性の理解、耐衝撃性の改善、衝撃後圧縮強度の向上です。

層間強度の強化
 我々は二重片持ちはり(DCB)試験を行って(図1左)、材料中の層間を進む亀裂を生じるのに必要なエネルギーを計測しました。縫合糸の破壊挙動を理解するための層間引張試験も行いました。その後で縫合複合材の特性をモデル化し、実験結果を検証するためにコンピュータ・シミュレーションを行いました。コンピュータ・シミュレーションで、我々は層間を進む亀裂が生じる際の縫合糸の挙動をとらえる新たな縫合モデルを開発しました。縫合材では縫合糸の太さが増し、縫合個所が接近するにつれて、単位面積当たりの層間剥離を生じさせるために必要なエネルギーの大きさである層間破壊靭性GIC が大幅に増すという結果が示されました(図1右)。
縫合パラメター
図 1. 二重片持ちはり試験(左):層間強度の増加(右)

強化された耐衝撃性
 試験片に衝撃を加えてその動的応答を分析するために、我々は重りを上から落とす試験を用いました。衝撃力‐時間のグラフから、異なる縫合パラメータによる動的応答の違いを検討しました。次に、Cスキャン超音波探傷装置とX 線ラジオグラフィを用いて、試験片内部に隠れた衝撃損傷の大きさを探知し、比較しました(図2)。マイクロX線CT システムを用いて、縫合複合材の耐衝撃性のメカニズムについても把握しました。亀裂が縫合糸の所で止まるなど捕獲および架橋のメカニズムによって、層間剥離が抑えられることが明らかになりました。
図2. Cスキャン超音波探傷装置(左):縫合複合材における層間剥離の減少(右)

衝撃後圧縮強度の向上
 衝撃後圧縮 (CAI) 強度は航空機構造にとって重要な設計要件です。衝撃を加えられた試験片にインストロン型試験機(図3左)を用いて圧縮試験を行いました。また圧縮応答曲線を得て、特性を把握しました。我々は縫合によってCAI強度が大きく向上することを確認することができました(図3右)。CスキャンとX線を用いたCAI試験片の破壊機構の研究も行いました。
衝撃エネルギー
図3. 衝撃後圧縮試験(左):CAI 強度の向上(右)

 本研究では、我々は研究成果を8つの国際および国内会議で発表すると同時に、8本の国際的な学会誌に論文を発表し、多くの知見を明らかにしてきました。良好な評価が得られたことから、縫 合複合材によって航空機構造がより軽く、より強くなるものと我々は確信しています。我々の研究成果が複合材研究の進歩においてきわめて重要なものであると私は考えています。
渡辺研究室へのウエブリンク: http://aswat1.tmit.ac.jp/