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アジア通信
第31号 2014年3月26日発行
東京都でANMC21の業務を通して学んだこと
―ANMC21事務局スタッフとしての1年間―
レポート:東京都知事本局国際共同事業担当(川崎市から派遣) 田村 俊樹

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海外旅行も大好き アルゼンチンの氷河を背に

 私は大学時代に、英語サークルに所属して英語力を磨くとともに、イベント通訳のボランティアなどを通じて外国人の方との交流を行っていました。川崎市に就職した後も、海外と関わる仕事に興味を持ち続けていましたが、川崎市では入庁以来ずっと保育行政に携わっていたため、行政における国際関係業務を経験する機会はありませんでした。
 そんな中、東京都外務部国際共同事業担当(ANMC21)で派遣職員として1年間勤務できるチャンスがあることを知り、挑戦をしてみることにしました。

 ANMC21は、アジアの13都市が加盟する都市間ネットワークで、産業や環境など様々な分野における共同事業に取り組んでいます。川崎市では特定の分野にのみ関わる業務だったので、ANMC21の業務は未知の体験の連続でした。
 例えば、各国大使館に行って覚えて間もない業務を英語で説明することがあれば、都内中小企業の国際見本市への出展支援のためにベトナム・ハノイへ海外出張することもありました。
 ※その時の記事はこちら。http://www.asianhumannet.org/newsletter/201311/2.html
 今回は、私が一年間を通じて関わったアジア人材育成基金に関する業務について、お伝えしたいと思います。

1 高度研究外部評価委員会の運営

 東京都は、アジアの将来を担う人材育成に関する施策に充てるため、「アジア人材育成基金」を設置しています。この基金を活用し、アジアからの優秀な留学生を首都大学東京に受け入れ、アジアの発展や都市問題の解決に資する高度先端的な研究(以下、「高度研究」)を行っています。各研究では、研究が事業目的に則って行われているかを検証するために、「東京都外部評価委員会(以下、評価委員会)」の外部評価を受ける必要があります。私はこの評価委員会の運営を担当し、会場設営や研究発表者への対応を行いました。

 担当して間もない頃は、丁寧に準備すべきところと効率化を図るべきところの区別が付かず、また、気を配らなければいけない部分をおろそかにすることがしばしばありました。それを見兼ねた上司から、「日本を代表する頭脳とも言える先生達から、貴重な時間を頂いて会議を行うのだから、準備に最大限の注意を払わなければいけない」と注意されてしまったほどです。
 評価委員会は、研究の今後を左右する重要な場であり、委員会の評価次第では研究費の削減はおろか、研究の中止を検討せざるを得ない場合もあります。
 そのため、発表者は日頃の研究活動で多忙の中にあっても、委員の方々に対して十分な説明ができるように、どんなに時間がかかっても丁寧に準備してきます。事務局は、資料の準備から発表時間の管理まで綿密に行い、限られた時間の中で適切に評価が行われるようにしなければなりません。
 また、発表者にとって、同じ分野の第一人者である各委員は、その名前を聞くだけで緊張するほどの先生方であり、その目の前でプレゼン及び質疑応答を行うことは、非常に緊張することです。
 もちろん、全体進行を担う我々事務局も緊張しますが、発表者の緊張は比べものにならず、本番前は非常にナーバスな状態になります。発表者の応対を担当する者としては、発表者が発表に集中できる環境を作るため、進行管理に問題が起きないよう最大限の注意を払う必要があります。
 改めて私は、自分の業務の責任が重大であることに気づき、心を入れ替えて出来る限りの準備をして会議本番を迎えました。

 本番では、発表の進行時間が予定より早く進んでしまい、評価時間の終了間際になっても次の発表者が来ない、といったハプニングがありました。しかし、こうした事態も想定して、発表者には少なくとも30分以上前には来てもらい、当日の進行次第では到着して早々にプレゼンを行う場合もある旨を事前に通知していたことが功を奏して、会議は最後まで無事に進行しました。終了後、上司からも「しっかり準備ができていた」と言ってもらい、大きな達成感を感じることができました。

 評価委員会は、私にとって一年間で初めてのイベントであり、ここで気を引き締め、以後丁寧な業務を心がけたことで、後々のイベントについてもしっかり取り組むことができました。

2 留学生の修了を祝う会

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真剣な表情でスピーチするアリフさん

 東京都は、アジア人材育成基金により受け入れた留学生が博士課程を修了するにあたって、その長い研究生活をねぎらうために、修了を祝う会を開催しています。2013年は13名が課程を修了したため、9月11日に、副知事を中心とした東京都幹部への表敬訪問と、歓談を目的としたカジュアルな祝賀パーティーを開催しました。

 表敬訪問では、当初副知事と留学生が懇談を行う予定でしたが、限られた時間の中でひとりひとりが副知事と話をする時間を作ることは困難でした。そのため、留学生のうち1名に、留学生代表としてスピーチをしてもらいました。
 スピーチを依頼した相手は、インドネシア出身のアリフ・ユダントさん。航空宇宙機等に使う複合材料について研究をしていた学生です。東京都副知事を前にしてスピーチをすることは、非常にプレッシャーが大きい役目であり、恐縮して辞退してしまうのではと心配でしたが、「是非やらせて欲しい」という大変前向きな返事をしてくれました。彼の頼もしい返事を聞いて、私は安心して本番を迎えることができました。

 表敬訪問が実施された会議室は、執務室と違って天井が高くて荘厳な外観でした。表敬は、会議室の印象に相応しく、非常に厳粛な雰囲気の中で始まりました。
 そんな中、私がスピーチするアリフさんにマイクを渡そうと動き始めたとき、秋山副知事が目の前に座っているアリフさんに、自分のマイクを渡す一幕があり、想定していない事態に、一瞬全体に緊張が走りました。しかし、笑顔で「どうぞどうぞ」とマイクを渡す副知事の姿から、アリフさんの緊張を解すために副知事が機転を利かせてくれたことが分かり、場は非常に和やかなものになりました。
 副知事が自ら進んでホスピタリティーを示しているところを見て、非常に感動しました。

 アリフさんは普段は温和な雰囲気の人ですが、スピーチをしている時の表情は真剣そのものでした。スピーチは、日本でお世話になった人達への感謝から始まり、研究内容や将来の展望が語られ、最後は、「日本とアジア諸国がより良い未来を築くために、今よりもっと強い絆で結ばれることが重要です」と締めくくられました。アリフさんの真剣な思いが伝わるとともに、将来のアジアの発展を担う留学生達の代表として相応しいスピーチでした。

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嬉しそうに自分の写真を受け取る留学生

 その後続いた祝賀パーティーでは、サプライズを実施しました。宴もたけなわ、学生たちの緊張も解けてきたころ、先ほどの表敬訪問の際に撮ったばかりの記念写真を留学生それぞれに配りました。表敬が終わってすぐ写真の現像に取りかかっていたのです。「写真は後で郵送されてくるのだろう」と考えていた留学生達は、驚きの表情とともに笑顔を浮かべていました。留学生の中には、「さすが日本!」と言ってくれる人もいました。喜ぶ彼らを見て、自分達の考えた「おもてなし」が留学生に伝わったことが分かり、運営者として非常に感動しました。

3 この1年間を振り返って

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後日アリフさんと研究室で再会
丁寧に研究を説明してくれました

 着任当初、私は行政の国際関係業務について、自治体同士が取り決めをしてお互いの都市が利益を得ることをイメージしていたため、東京都が税金を使用してアジアの留学生を受け入れることに違和感を覚えていました。「アジアへの貢献」と言えば聞こえは美しいですが、考え方によっては、東京都のお金を他の都市のために使われているだけと思われてしまうこともあります。

 そんな考えを持っていたころ、高度研究を担当している首都大学東京の教授を訪問して、アジア人材育成についてお話を伺う機会がありました。「今から時間をかけてアジアの留学生を育成することは、それが明日すぐ東京のためになるわけではないが、将来留学生がその国をリードする人物になったとき、東京が持つ彼らとのネットワークは非常に大きな意味を持つ。」という意見を聞いて、私は、自分の仕事は目先の利益を追求することではなく、将来的に東京とアジアがWIN−WINの関係を築けるような社会の土台作りをする事業なのだと、改めて気づきました。

 このような感想を持つことができたのも、評価委員会や修了を祝う会において、ひとつひとつ地道な作業を重ねて、アジア人材育成基金を活用し実施されている事業に携わる様々な方との交流を通じて、アジアの人材育成について自分なりに考えてきた結果だと思います。一年間をかけて、業務の中で抱いた疑問に対して自分なりの答えを出せたことは、非常に有意義な体験だったと思います。

 川崎市に戻った後も、ANMC21の業務を通じて学んだことを忘れずに、川崎と東京、そしてアジアが共に発展できる社会を作れるよう頑張りたいです。