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アジア通信
第24号 2013年1月30日発行
海外の災害現場で活躍できる救助隊員になるために
〜シンガポールで開催された捜索・救助研修に、東京消防庁職員が参加〜

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研修参加者と
(後列右端から:菅沼さん、杉本さん)

2012年9月24日から10月5日まで、シンガポールにおいて、ANMC21研修プログラム「都市における捜索・救助研修」が実施されました。ANMC21会員都市からは東京消防庁の菅沼大資消防士長と杉本佳津馬消防副士長の2名が参加し、オーストラリア、イラン、韓国、中国のマカオ、モンゴル、タイからの参加者も含め、総勢17名の研修生が2週間の長丁場の研修に励みました。

当研修は、シンガポール民間防衛アカデミー(SCDA)において、救助隊員、消防士を対象に、講義や実技を通じて、都市における捜索救助に関する方法・技術を習得することを目的に実施されており、INSARAG(国連の国際捜索救助諮問グループ)のガイドラインに沿った研修内容となっています。これまでANMC21会員都市からは、バンコク、ジャカルタ、台北、東京の計21名が参加し、充実した研修施設でSCDAの経験豊富なスタッフの指導を受けてきました。

今回、研修から帰国されたお二人にお会いする機会を設けて、この研修について直接お話を伺ってみました。


菅沼さんは特別救助隊員、杉本さんは消防救助機動部隊員として、普段から厳しい救助活動訓練をされています。日々業務でお忙しい中、お二人が今回の海外の捜索救助研修に参加された動機・理由は何だったのでしょうか?

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(菅沼さん)前の職場である第八消防方面本部消防救助機動部隊在籍中の2011年3月に東日本大震災を経験し、ハイパーレスキュー隊として福島第一原発の冷却作業に第1陣として出動しました。震災時の救助活動では様々な国からの派遣隊員と接した中で、日本以外の救助隊員とコミュニケーションをとることの重要性に気付き、今回の研修でそれを実践してみたいと考え、応募しました。

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(杉本さん)まず第一に、国際消防救助隊(※注1)登録隊員として、海外での救助活動を学ぶためです。さらに、アジア各国から集まる他国の救助隊及び消防関係者とコミュニケーションをとり、その国の救助に対する考え方を学び、今後の職務に活かすためです。また、2週間の研修を通じて異文化の人と関わり、生活することで、精神面で自らを成長させたいと思いました。

(※注1)海外で大規模災害が発生した場合、総務省消防庁などの政府の要請により、各都道府県消防機関の国際消防救助隊登録隊員が被災地に派遣され、救助活動を行う。

研修の取りまとめ役として、シンガポールからもらったスケジュールを予め拝見していたのですが、毎日ぎっしりメニューが詰め込まれた、とてもハードな研修のように感じました。実際に参加された研修はどんな内容でしたか?

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(杉本さん)今回の研修プログラムは、講義、訓練、施設見学、24時間耐久訓練、閉講式という構成でした。研修の締めくくりとして行なう24時間耐久訓練は、2つの大きな訓練施設を使用し、7つの現場の要救助者を順番に受講生17人で救出していく、研修の成果が試される訓練でした。

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(菅沼さん)大災害に備え、アジアの国々の救助隊員と合同で訓練を行い、都市部における捜索救助要領を学び、現場で活かすためのカリキュラムでした。世界的には標準技術となったロープレスキューやブリーチング(破壊訓練)、ショアリング(建物安定化)技術を身につけるための研修プログラムになっています。

【研修内容詳細】

講 義

都市部における捜索救助活動の原則、倒壊建物の種類、閉鎖空間での救助活動、DART隊(シンガポールの震災対策用の部隊)と海外災害派遣の概要と事例、国連機関の概要、心的外傷のケアシステム等

訓 練

救助資器材、高度救助資器材取扱要領、結索訓練、高所におけるロープワーク、呼吸器取扱要領と体力テスト、傷病者搬送法、ブリーチング(破壊訓練)、ショアリング(建物安定化)技術

施設見学

シンガポールのセントラル消防署とDARTを見学

24時間耐久訓練

24時間に渡って7ヶ所の災害現場で救助活動を行う、ラリー形式の国際救助隊訓練

閉講式

修了証書の授与、学校長との訓練評価と意見交換

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低所からの救出訓練(杉本さん)

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ショアリング(建物安定化)訓練でのコンクリート切断(手前:杉本さん)

研修に実際に参加してみて、何かメリットはありましたか?また、今後東京でも役に立つと思われるプログラムについても教えてください。

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(菅沼さん)総合訓練としての24時間訓練では、7カ国の受講生が一つ一つの現場で意見交換をしながら、共同で救出作業を行います。普段は外国の救助隊の方と直に接する機会はありませんが、研修に参加したからこそ、一緒に活動をすることができ、海外の現場での救助活動を想定した訓練を体験することができました。

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ブリーチング(破壊訓練)の訓練場にて
(2列目中央:杉本さん)

(杉本さん)同じく外国の方との交流の機会が持てたことと、外国の参加者から、クライストチャーチの地震での救助活動の経験や救助現場で求められること等、実体験を直接聞くことができたのが良かったです。シンガポールの先生はこれまで各国から多数の研修生を受け入れ、海外へも出かけて教えています。アラブ、アジア、オーストラリアなど各国に知り合いがいるそうです。我々消防隊員は救助活動で海外に出ることも多く、現場で再会することも多いので、知り合い同士の方が活動がしやすくなると思います。

今回の研修に参加された中で、一番苦労されたことは何ですか?

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24時間耐久訓練での閉鎖空間からの救助活動(手前:菅沼さん)

(杉本さん)やはり、『言葉の壁』です。本当に苦労しました。24時間訓練では7現場の訓練があり、各現場で指示出しをするリーダー(隊長)を決めました。私自身、1現場のリーダーを担当しました。具体的な活動の指示を英語で出すのですが、消防用語の英語は特殊なため、普通の英語では通じないことが多いんです。訓練中はオーストラリアからの参加者が最初から最後まで側で具体的な表現を教えてくれたので、実践的な表現を学ぶことができました。指示を受ける側であれば、リーダーの動きを見ていれば何をやっているのかはわかりますが、具体的な指示を出すのは、実際に英語での指示を経験しないと身につかないため、今回の研修に参加した意味があったと思います。

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(菅沼さん)確かに言葉の壁はありましたね。それでも、わからないことは質問すれば、噛み砕いて説明してもらえました。救助法はある程度どの都市も共通するので、何を言っているのか大体のイメージが掴みやすかったですし、先生の英語もわかりやすかったです。

今回の研修には、東京からお二人に参加していただいたほか、世界中の各都市からも参加者が集まりました。いろいろとお話されたと思いますが、他の都市の参加者は、この研修についてどのように評価していましたか?

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(杉本さん)研修設備の種類が多く、規模も大きいため、設備がとても良かったと評判でした。とても珍しいなと思ったのは、4〜5階建ての軍の宿泊施設の廃墟丸々1棟を訓練設備としていることです。コンクリートを切ったり、建物が崩れないようにショアリングをしたりと、より実践的な現場訓練が可能です。大規模な訓練設備を活用して、大掛かりで実践的な質の高い訓練ができると、皆設備に興味を示していました。
実際に研修に参加してみて、SCDAは国外からの評価がとても高いと感じました。東京も、高い救助技術、先進的な資機材を海外に伝えていくために、現在東京消防庁が実施している海外派遣、海外からの研修生受入れ等、交流の場をさらに拡充すれば、もっと国際貢献できると強く感じました。私自身もこの研修での経験を活かし、東京がどう海外諸国に貢献できるのかを考え、今後の職務に活かしていきたいと思っています。

研修中はSCDAの寮で研修生と寝食を共にするので、授業以外でも研修生同士で交流する機会はたくさんあったのではないでしょうか?授業外での交流や寮での生活環境はどんな感じでしたか?

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(菅沼さん)寮は研修施設の敷地内にあり、二人一部屋で、全研修生が同じフロアに宿泊します。バス・トイレ・洗濯は共用なので、他国参加者とは授業外でも接する機会に恵まれています。食事は週休日以外は3食付いていますが、授業後に参加者同士で飲みに行くことも多く、全体での飲み会も2回あったので、親しく交流することができました。
研修にはインストラクター4名と24時間サポートをしてくれるサポーターが1名つき、サポーターは寮の同じフロアにいていつでも相談できる体制になっているので、生活上の不便は特に感じませんでした。

この研修は、訓練内容がハードなため、参加者には研修前に医療証明書が求められます。平日は朝8時から17時半までぎっしり研修スケジュールが組まれていて、体力的に大変だったと思いますが、平日の授業後や週休日はどのように過ごされましたか?

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(菅沼さん)救助隊資格を持っていれば日常的に訓練を受けているので体力的には特に問題はなかったですね(笑)。授業後も充分楽しむだけの余力は残っていました。平日の授業が終わった後には、シンガポールの職員が生徒に行きたい場所を聞いて、自家用車で観光に連れて行ってくれました。観光地のほか、ガイドブックに載っていない地元の人ならではの場所にも行くことができました。インディアンタウンにあるムスタファセンター(※注3)ではお土産が安く買え、ばらまき土産用にマーライオンチョコ等を購入しました。世界3大がっかり(※注4)と言われている(笑)、マーライオンも夜景時はきれいでしたね。近くの飲み屋やチャイナタウンにあるホーカーズ(屋台村)では、地元の人が多い場所でシンガポールの現地の空気を感じることができました。

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マーライオンの夜景(左から:菅沼さん、杉本さん、インストラクター、韓国の参加者2名)

(※注3)24時間営業のインド系大型ディスカウント・ショッピングセンターで、食料品、日用品、電化製品、衣類、アクセサリー等、ありとあらゆる物が揃う。
(※注4)日本人観光客が、事前の期待が大きすぎて現物を見た時にがっかりしてしまう世界3ヶ所の観光名所。シンガポールのマーライオン、コペンハーゲンの人魚姫の像、ブリュッセルの小便小僧が有名で、意外に小ぶりでカワイイサイズに拍子抜けするようです。

週休日の日曜日には研修中に仲良くなった韓国からの参加者と一緒に、マレーシアのジョホールバル、セニボン、格安ショッピングセンターにも行って来ました。

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(杉本さん)セニボンは小屋が立ち並ぶ海辺の魚料理が美味しい所で、日本人はあまり行かない場所です。料理が美味しく、日本では考えられない安い値段でてんぷら風の海老料理や蟹のチリソースを楽しめました。
オーストラリア組はセントーサ島に行ったようで、参加者はバスや電車を利用して観光に出かけ、それぞれ週休日を楽しんでいたようです。

研修もたいへん充実していたようですが、課外時間や週休日をうまく利用してシンガポールを満喫されたようですね。最後に、当研修に参加する一番の魅力は何でしょうか?

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(菅沼さん)各国の参加者との交流が魅力で、各国の国民性が分かって良かったです。言葉で苦労はしましたが、逆に研修に参加して苦労したことで言葉の大切さがわかった気がします。

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(杉本さん)各国の参加者と友達になれることですね。今でも参加者とは連絡を取り合っています。同じ職業で似たような環境の人達なので、国や家族の話など、共通の話題で盛り上がることができて楽しかったです。もともと海外救助活動での活躍を目指して英語の勉強はしてきましたが、研修に参加したことで、もっと勉強してレベルアップしたいと思うようになりました。

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研修閉講式 (1列目右から2人目:杉本さん、同3人目:菅沼さん)

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研修後インタビュー
(左:杉本さん、中央:菅沼さん)

お二人にとって、今回の研修は、捜索・救助技術の習得だけでなく、各国からの参加者と交流を図り、人的ネットワークを広げる絶好の機会になったようです。お二人とも、もう一度参加するチャンスがあったらぜひ参加したい!と言うくらい、充実した毎日だったようです。
ご興味のある方はぜひ来年以降の研修にご参加ください!!

SCDAのHPはこちら(英語のみ): http://www.scdf.gov.sg/content/scdf_internet/en.html